2020年2月14日、ホンダはフィットの第4世代となるモデルを満を持して発売した。世界に誇るコンパクトカーのベンチマークとして、よりユーザーが求める性能を追求し満足度を高められたモデルとして生まれ変わったのである。今回は、ホンダ フィットの歴史を紐解きながら、新型フィットの魅力について解説していこう。
どんなユーザーでもぴったり「フィット」するクルマを目指して
ホンダのフィットは、ぴったりという意味の”fit”を名前の由来としている。その名の通り、あらゆるユーザーの生活に、ぴったりと寄り添うことができるモデルとして開発されたのだ。そのため、取り回しの良いボディサイズと、広くて実用性・利便性ともに優れたフィットは、発売当初から性別や世代を問わない大人気モデルとなったのである。
4代目となった新型フィット(GR系)は、歴代のフィット達がこれまで築いてきた性能や機能性に磨きを掛けつつ、心地よさにも焦点を当てたモデルチェンジを遂げた。
5ナンバーサイズに抑えられたボディサイズは、全長3995mm×全幅1695mm×全高1515mmを基本とする。これはまさに、フィットたるゆえんとなったサイズだろう。これより大きくても小さくてもそれはフィットでは無くなってしまう。現に、2011年に登場したフィットの派生モデルとして、ワゴンスタイルだった『フィットシャトル』は『シャトル』として独立したモデル名となっているからだ。
また、新型フィットは、少し特徴的なグレード展開をしている。正確に言えば、グレードではなくスタイルになるだろう。5つのスタイルとは、シンプルだからこそ個性が見えるBASIC(ベーシック)、デザイン性と快適性に富んだHOME(ホーム)、2トーンのカラーリングが特徴的で、アクティブに過ごしたい人に向けたNESS(ネス)、ミニマムSUVルックのCROSSTAR(クロスター)、上級グレードの位置づけになるLUXE(リュクス)だ。この展開も、フィットがよりフィットらしくあるための戦略かもしれない。なぜなら、どのスタイルにもガソリン/ハイブリッドの設定があり、同じようにどのスタイルにもFF/4WDの違いがある。すべてを合わせれば、合計20ものスタイルからユーザーは好きなモデルを選ぶことができるようになっているからだ。
パワートレーンは、ガソリン/ハイブリッド共ともに1.5L 水冷直列4気筒DOHCエンジンを採用。ガソリンモデルでは最高出力98PS、最大トルク12.0kgf・mを発生させ、ハイブリッドモデルでは最高出力98PS、最大トルク13.0kgf・mに加え、最高出力109PS、最大トルク25.8kgf・mのアシストを受けることができる。
新型フィットに採用されているハイブリッドシステムは、コンパクトカーとして世界初採用となった「e:HEV」だ。このシステムには、ホンダが参戦しているF1で得たノウハウが活かされており、優れた燃費効率と高い走行性能を両立させている。
F1と言えば、モータースポーツの最高峰だ。そのフィードバックにより開発されたハイブリッドシステムが、優れていないはずがないのである。さらに、そのノウハウはハイブリッドエンジン以外にも反映されている。それは、乗り心地だ。ピラーやメーター周辺のデザインを見直すことで視界が良くなっただけではなく、足回りのサスペンションを再設計することで路面との接地感を高めている。軽量化した上で剛性が向上したボディのお陰で、段差や少々のカーブはものともしない。ホンダの先進安全技術であるホンダセンシングを全車で標準装備することで、安全性も極めて高い水準となった。
新型フィットには、数字で語れない心地よさが詰め込まれている。エッジが効いたカッコよさや、分かりやすい派手さはない。しかし、それでもユーザーにとって心地よい一台であることは間違いないだろう。
正常進化を遂げてきた歴代のフィットたち
ホンダのフィットは、これまでに3度のフルモデルチェンジを受けている。初代モデルとなるGD系が発売されたのは2001年だった。「フィットする気持ちよさ、広がる」をキャッチコピーとして開発され、5ドアのハッチバック式コンパクトカーとして登場。パッケージングやユーティリティの高さから2007年には世界累計販売台数200万台を達成するなど、一躍人気モデルの仲間入りを果たしたのである。
2代目となるGE系が登場したのは、2007年。初代モデルよりも僅かに大きくなったボディサイズにより室内空間が拡大。エクステリアの見直しが図られ、より高級感を感じることができるデザインとなった。パワートレーンにi-VTECが追加されたことで走行性能も向上。スポーツグレードにあたるRSやハイブリッドエンジンを搭載したフィットハイブリッドが追加されたことで注目を浴びたモデルだ。
2013年にデビューした3代目のGK系は、伝統となっているセンタータンクレイアウトを引き継ぎ、スモールカーであることを貫いたモデルだった。しかしながら、DOHCエンジンを採用したことで、これまでのフィットにはなかった燃費効率と走行性能を手に入れたモデルだ。ハイブリッドモデルには、新開発のシステムであるスポーツハイブリッド i-DCDを採用。最適な走行モードを自動で切り替えることで、36.4km/Lという当時の国内トップの燃費性能を手に入れた。
ホンダ 新型フィットの裏コンセプトは、なじみ深いあの犬だった
新型フィットのフロントマスクを見て、おや?と何かを感じた方も多いのではないだろうか。先代にあたる3代目フィットでは、「エキサイティング エイチ デザイン」をコンセプトに、シャープさを押し出した目ヂカラの強い造形となっていたフロントフェイス。
しかし、新型フィットではシャープさというよりは、丸っこくてポテっとした可愛らしさが感じられる。まるで、全く異なるモデルであるかのように刷新されているのだ。
これは、新型フィットのグランドコンセプトに秘密がある。新型フィットのエクステリアのデザインコンセプトは、実用的で最も心地良いパートナーだ。そして、新型フィットは世界的に見ても代表的なコンパクトカーでなくてはならない。ここで、開発陣がたどり着いた答えが柴犬だったのだ。柴犬は、古来より日本人の良きパートナーだった。新型フィットにエッジが効いたデザインが採用されていないことに対する答えがここにあり、日常で親しみがわくようなイメージは、なんと動物をモチーフとしていたのである。それを知ったうえで、もう一度新型フィットのフロントフェイスを眺めていると、なんとなく愛くるしく見えてくるから不思議である。