米 フォード傘下リンカーンが、上海モーターショーにてゼファー リフレクション コンセプトを発表した。このコンセプトカーは、中国市場に狙いを定めたリンカーンのデザイン戦略とテクノロジーのショーケースとなる。エンジンやプラットフォーム等は不明だが、生産仕様車となって詳細の発表がある見込みだ。
往年の「ゼファー」が復活
今回発表されたゼファー リフレクション コンセプトを見て、嬉しい気持ちになった自動車ファンも多いだろう。車の王道、4枚ドアのセダン。アメリカでキャデラックと並ぶ人気と知名度を誇るリンカーンは、セダンを諦めていなかったのである。
リンカーンのコンチネンタルが、突然歴史に終止符を打ったのが2020年末。兎にも角にもSUVという市場の動きに、仕方のないことだったとはいえ、非常にショッキングな出来事であった。
そんな歴史の転換ともいえる重大な出来事から1年と経たず、リンカーンのセダンが再び動き出したのである。このゼファー リフレクション コンセプトで、リンカーンはアメリカンラグジュアリーを現代風にアレンジ。1935年から1942年まで用いられていた「ゼファー」のニックネーム。それが現代に蘇るのである。
ちなみに、オリジナルのゼファーはすでに超が付くほどの希少なモデルとなっている。日本国内では、10年待っても程度の良い個体は入手できないだろう。現地で、オリジナルコンディションを保っている1台ならば、申請をすることで「ヒストリカルビークル」として認定を受けることも可能。ただの車ではなく歴史的文化財として税金や保険料など、さまざまな優遇を受けられる。日本と海外のオールドカーに対する、認識の大きな隔たりを感じさせる知識の1つとして覚えておいても損はない。
新しいデザイン言語
ゼファー リフレクション コンセプトはリンカーンが“quiet flight(直訳すると静かな飛行)”と呼ぶデザインフィロソフィーを採用している。
フロントフェイスで目を引くのは湾曲した大型のグリルだ。夜空にインスピレーションを受けたというこのグリル。独特のパターンは、スターバーストと呼ばれるものだ。
さらに、クーペのようになだらかな傾斜のルーフラインはティアドロップとなり、30年代に製造されたオリジナルのゼファーの面影を残している。大いなるアメリカンクラシックへのリスペクトだ。
また、インテリアではダッシュボード横幅一杯に広がる、“coast-to-coast(海岸から海岸へ)”デジタルインフォテインメントシステムが特徴的だ。この画面のテーマも夜空をインスパイアしており、ノーマル・スポーツに加え、面白いことに日本の「禅」もテーマの1つとされている。
このインフォテインメントシステムは運転中の情報を表示するだけでなく、エアコンやオーディオなど、ほとんど全ての操作を引き受ける。全ての配置は、乗員が直感的に操作できるよう計算されているという。
それによって、車内は驚くほどミニマリスティック。物を減らしていくことが高級感に繋がるとは、30年代にオリジナルのゼファーを設計したエンジニアが見たらきっと驚くであろう。
中国の富裕層へ向けて
満を持して発表されたリンカーンのゼファー リフレクション コンセプトだが、全世界に向けてというわけではない。残念ながら、量産仕様車になったとしても実物を見られるのは中国市場のみだ。
このデザイン自体も、目が肥えた中国の富裕層の期待に応えるべくして生まれたものだという。そもそも、上海モーターショーで発表されたのだから、そのようなことは推して知るべしなのだろう。
実際、中国市場は自動車メーカーにとってはドル箱だ。あらゆるメーカーが、上海モーターショーで新型車を公開している。もちろん、絶対数ではSUVやEVが多いものの、最新のセダンをひっさげて参戦しているメーカーも確かに存在している。
リンカーンもその中の一つ。今後、ゼファー リフレクション コンセプトに用いた“quiet flight(静かな飛行)”フィロソフィーを採用するモデルが控えているはずだ。セダンの復権とまではいかずとも、その存在感を中国で見せつけてほしいものである。
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リンカーンのゼファー リフレクション コンセプト。ボディサイズや詳細なスペックは不明であり、生産仕様車としての販売時期も未定である。しかし、30年代にリンカーンの総販売台数の80%を占めた伝説的な名車が現代に蘇るのなら、中国のユーザーはいつまでも待つのではないだろうか。