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第3章 本格ファミリーカー「COROLLA」とRT-X「TOYOTA 1600GT」

 トヨタが世界的な名車と云われる「トヨタ2000GT」を発表した翌1966年、満を持してトヨタは本格的な小型ファミリーカーを発売する。初代「カローラ1100」だ。半年だけ先行する日産サニーに“プラス100ccの余裕”をアピールする。いっぽう、トヨタ・スポーツは、モータースポーツで活躍していた「RT-X」を市販に移す。「トヨタ1600GT」の登場だ。

Toyota Corolla 1st

 乗用車の輸入自由化がはじまった1965年、国内自動車企業は再編と自己資本の強化に務める。プリンス自動車の項で詳報した日産自動車によるプリンスの吸収・合併がその再編劇の代表だ。

 ザ・ビートルズが来日公演で鮮烈な印象を残した1966年、画期的な国産車が10月にデビューした。KE10D型「トヨタ・カローラ」だ。貿易自由化した国内市場に対応すべく、800ccの大衆車パブリカと1.5リッターのファミリーセダンであるコロナとの間を埋めるためにデビューしたトヨタを代表するハイ・コンパクトだ。

■パブリカの苦戦を反省、誕生した新型

 新型カローラの開発は、販売面で苦戦を強いられたパブリカの反省を踏まえ、いたずらに合理性を追求することを避け、“総合バランスのよさ”“適度に豪華な普通”を標榜して開発。時代の基準からみて非常に手堅い設計と、周到とも云えるマーケティングによるユーザーの志向調査、そしてそれに応え装備類の充実を図り、派生モデルの開発を行なった。価格は39.8万円のパブリカに較べて高い、中間グレード「スペシャル」で47.2万円だったが、高性能ラジオやヒーター、リクライニングシートやウィンドゥウオッシャーなど当時としては十分といえる装備が標準で備わっていた。結果、コンパクトカーとして、国内市場だけでなく、グローバル市場でも大成功した国産車として希有なモデルとなった。

 ボディサイズは、ライバルたる「日産サニー」の全長×全幅×全高3820×1445×1345mmを僅かに上回る全長×全幅×全高3845×1485×1380mm、ホイールベース2285mm。優れた走りのイメージを狙った「プラス100ccの余裕」を前面に、「サニー」を仮想ターゲットに据えた刺激的で挑戦的なキャッチコピーとともにデビューした。

 搭載エンジンは新開発のK型で、その後、排気量を拡大しながら改良を続けて80年代までトヨタの小型車の主力ユニットとなる。初代K型のボア×ストローク75mm×61mmで1077cc直列4気筒OHVは、最高出力60ps/6000rpm、最大トルク8.5kg.m/3800rpmを発揮。ライバルであるサニーの1000ccエンジンの56ps/7.7kg.mを上回る“ゆとり”が、現在の軽自動車よりも軽い車重690~710kgのカローラに優位性をもたらす。

 組み合わせるギアボックスも3速マニュアルのコラム式を採用するサニーに対し、前席セパレートシートの間から伸びるフロアシフト4速マニュアルのカローラは若々しくスポーティな雰囲気を持っていた。

 初代カローラは当初2ドアセダン・3グレードだけでスタートしたが、翌年に4ドアセダンとバンが追加され、同時に、オートマティック・トランスミッション「トヨグライド」を搭載した2ペダル車が追加される。このクラッチ操作から解放する“トルコン”の「トヨグライド」はトヨタ高級車の象徴で、当時は最高級車クラウンに搭載していただけだった。

 また、1968年のマイナーチェンジでエンジンのストロークを延長して排気量を1.2リッターに拡大。SUツインキャブ仕様の高出力エンジンを搭載したSL(スポーツ・ラグジュアリー)グレードを追加。同時にスポーティでスタイリッシュなファストバッククーペ「カローラ・スプリンター」が加わり、商用車を含めたワイドバリエーション体制が完成する。

■国産初のハードトップRT50型の登場

 トヨタは小型ファミリーカーとしてカローラを発表した後、モーターショーで1965年にプロトタイプを発表していた「トヨタ2000GT」を1967年に正式発売した。トヨタの持つあらゆる“最高”を集めた珠玉の1台は価格238.0万円と、これまた最高だった。つまり、トヨタ2000GTはあくまで最高峰であり高値の花だったのだ。そこでトヨタは2000GTの弟分の開発に着手する。価格100万円の“GT”の開発だ。

 トヨタは1964年5月、中堅ファミリーセダンとしてRT40型と呼ぶ3代目コロナを新開発し市場に送り出した。そして、開通したばかりの名神高速道路で「10万km連続走行テスト」を実施。高速時代をイメージした積極的なプロモーションを展開し、日産ブルーバードと激しいツバ迫り合いを繰り広げる。

 そして、翌1965年7月に、国産初ピラーレス2ドアハードトップRT50型を追加する。センターピラーが無いハードトップ(HT)のボディは、どうしてもボディ強度が落ちる。そこで開発陣は全高を下げ、補強を施しHTボディを完成させた。結果、セダン比で40mm以上全高が低く、シャープなシルエットと開放感溢れるウィンドゥグラフィックが生まれた。このRT50型コロナHTは、後のトヨタ製スペシャリティカーの先鞭となる。

■YAMAHAとのコラボが生んだ、2基目のDOHC「9R型」テンロク

 1966年、トヨタはRT50型のHTボディにヤマハと協働による9R型1.6リッターDOHCエンジンを搭載したプロトタイプ「RT-X」を富士スピードウェイ完成記念レースでデビューさせ、デビュー・トゥ・ウイン、優勝を飾る。後の「トヨタ1600GT」だ。

 このRT50型コロナHTをベースに開発し、コロナの冠名を外したRT55型「トヨタ1600GT」は、カムカバーにYAMAHAと刻印のある9R型テンロク・エンジンで、ボア×ストローク80.5mm×78.0mmの1587cc直列4気筒DOHCエンジンを搭載。ソレックスキャブレターを2連装し、最高出力110ps/6200rpm、最大トルク14.0kg.m/5000rpmを発揮し、当時のカタログには0-400m加速17.3秒、最高速175km/hに導くと記載されていた。エンジン開発は2000GTの3M型DOHC開発で獲得していたノウハウが活かされた。つまり、コロナHT 1600Sの4R型OHVエンジンをベースにヤマハがツインカム化する手法である。

 組み合わせるトランスミッションは標準ではコロナHT 1600Sと同じフロアシフトの4速マニュアルだが、トヨタ2000GTと共通のショートストローク5速マニュアル搭載車も用意され、“GT5”の別称で呼ばれ、フロントシートは2000GTと同形状のバケットシートだった。

 この1600GT5は、ボディサイズ全長×全幅×全高4125×1565×1375mm、ホイールベース2420mm。車重は1030kgだった。基本的にレースに参戦することを目的に開発されたトヨタとしては稀なクルマで、各種のチューニングパーツが準備された。9R型のタフなエンジン特性を活かして国内ツーリングカーレースで活躍する。

 このトヨタ1600GTの登場でトヨタは、2000GTを頂点に、ベーシックなトヨタスポーツ800と併せて“大・中・小”、つまり“松・竹・梅”と3台のスポーツカーが揃った。そして、RT55/RT55M型トヨタ1600GTは1967年から68年まで生産され、トータル2229台が世に送り出されたと云われる。価格はGT4が96.0万円、GT5が100.0万円だった。

 このように量産型ボディにヤマハと協働で開発するDOHCエンジンを量産モデルに搭載する手法は、このトヨタ1600GTが先鞭をつけた。つまり、量産車からボディやサスペンションなど多くのパーツを受け継ぎながら、パワーアップしたDOHCエンジンや強化した足回りなどで、スポーティな味付けを加えたスポーツモデルをつくる。こうした手法はコストを抑えるという側面と、量産車がイメージリーダーを持つという大きなメリットをもたらす。この手法は、その後のトヨタ・スポーツの常套手段となる。

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