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LEXUSの源流、伝統の欧州ブランドに比肩すべく挑んだトヨタの上級サルーン

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 本格派高級サルーンとしてオーソドックスな3ボックスボディに、世界でも最高水準の技術と高い品質を注ぎ込んで開発した、日本発のラグジュアリーセダンがバブル絶頂期の1989年に誕生した。端正な外観フォルム、奇をてらわないインテリア、文句のない十分以上の動力性能と卓越したハンドリングを凝縮したトヨタの新型車はセルシオとして発表、米国では新ブランドLEXUSの源流となった。

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 1970年代に世界を席巻した排気ガス規制、なかでも世界一厳しいとされた米国のマスキー法による排ガス規制をホンダCVCCエンジンがいち早くクリアし、次いで規制を世界に先駆け解消した日本車が続く。日本製のクルマは低燃費で環境に優しく、かつ高品質という評価を獲得した。そして1980年、日本車は米国車を抜いて世界一の生産台数を記録する。

■日米貿易摩擦が生んだ円高不況、そして

 しかし、その記録は日本自動車産業界にとって“諸刃の剣”だった。日本車に圧倒された米国の基幹産業でもある自動車業界で失業者が増大、米国の政治問題に発展するのだ。そして1981年に、日本からの輸出台数を168万台に抑える自主規制という名の圧力が示される。それでも日本の経済は堅調で、自動車だけでなく電機など日本の輸出産業の好調な流れは、プラザ合意を経て、円高ドル安へ進む。その結果、円高不況による経済停滞を招く。

 それを打開するため日本政府は強引とも云える金融緩和を実施、いわゆるバブル経済の遠因をつくる。そして自動車界は、米の圧力をかわすため、米国現地生産を積極化する。同時に日本から輸出する完成車は、単価の高い高付加価値商品、つまり高級車や高性能スポーツ車にシフトする戦略で臨む。

■トヨタ創業50年記念車企画「セルシオ」

 その渦中にあった日本最大の自動車メーカー、トヨタは折しも1988年に創業50年を迎えようとしていた。そこで当時の会長だった豊田英二氏が「トヨタ50年の自動車製造の経験を活かし、究極の高級車を製造する」と宣言。1984年に新型高級車の開発がスタートしたと伝わる。

 そして1989年10月に国内で発表されたクルマ「セルシオ」であり、ひと足先早い9月には、米国で新しいブランドでそのデヴィジョンである“LEXUS”を立ち上げ「LEXUS LS400」の名で発売された。

写真:Lexus LS400_1

 発売となった新型は3BOXのボディ、フロントに屹立したラジエターグリル、すっきりしたウインドウグラフィック、さり気ない後ろ姿など、その佇まいから“端正”という表現がピッタリなクルマだった。高級車だからと云って肩肘を張るような仕草を感じさせないセルシオ(LEXUS LS)は、北米や日本のユーザーから拍手をもって迎えられた。

 デビュー当時、自動車評論家の岡崎宏司氏はセルシオについて次のように記している。

「セルシオには、メルセデスSクラスほどの自信に満ちた“強さ”はまだ備わっていない。ジャガーXJサルーンのような“瀟洒な香り”もまだない。それは時間の流れが生み出す伝統というベールによって演出されるものだからだ」としながらも、メルセデスでもミディアムクラス、BMWの5シリーズなどは圧倒するとしていた。

写真:Lexus LS400_2

■源流対策の結晶

 セルシオの開発には、トヨタとして新しいジャンルの高級へのいくつかの挑戦が掲げられた。そのひとつが開発主眼の「源流対策」だ。この源流対策のために多くの部品設計や生産設備新設が許された。「源流対策」を簡単に云うと、ある症状が発生したから対応する投薬(改良・改善)を行なうのではなく、症状が出ないように原因を絶つということ。つまり、セルシオの美点とされた“高い静粛性”を得るために、遮音材を詰め込んで対応するのではなく、騒音が出ないように設計し直すということなのだ。

 そのためのボディ製造では高度なレーザー溶接が行なわれた。厚さや表面処理が異なる鋼板を組み合わせ、仕上がりをツライチに溶接・接合してからプレスする技法が用いられ、軽くて剛性の高いボディが完成した。そのボディ寸法は全長×全幅×全高が4,995mm×1,820mm×1,400mm、ホイールベース2,815mm。車重1,750kgとなった。

写真:Lexus LS400_3

 搭載したパワーユニットは1種。新設計総アルミ製のボア×ストローク87.5mm×82.5mm、3968ccのキャパシティを持ったV型8気筒DOHC32バルブエンジンで、排気側マニホールドはステンレス製とされた。これは生産工程が面倒にはなるが、軽量化と耐熱性に優れ、三元触媒の活性時間短縮に繋がることから採用となった。この結果、最高出力260ps/5400rpm、最大トルク36.0kg.m/4600rpmのアウトプットを得て、250km/h以上での巡航も可能となったという。

写真:Lexus LS400_4_Engine

 トランスミッションはエンジンと協調制御する電子制御4速オートマティックだ。コンピュータでコンバータのオイル(専用フルード)流量をコントロールするスーパートルクコンバーターとした。変速時にはエンジン点火時期を微調整してトルク制御(30%低減まで)を行ない、変速ショックを抑え込んだ。

 サスペンションは構成する構造部品がすべて鍛造とされた新開発の4輪ダブルウイッシュボーンである。手間とコストを要する鍛造パーツの採用は云うまでもなく軽く高剛性を得るための手段だ。標準のダンパーはオイルとガスを別に封入したツインチューブとして、追従性に優れた構造とした。

 また、コイルバネ+ダンパーの機械式標準サスペンションのほかに、ピエゾTEMS+エアサス仕様が用意された。ピエゾTEMSはトヨタが80年代に高級スポーツ車ソアラなどで開発・搭載したTEMSの発展形で、通常走行でハード側に設置していても、並行段差などを乗り越える瞬間だけソフトに切り替える制御を組み込んだ高度なシステムだ。減衰力切り替えバルブ駆動にピエゾアクチュエーターを用いることで、従来のTEMSに較べて数倍の切り替え速度が得られていた。これが4輪独立感知、前後輪独立で左右同時に制御する。

■高い品質と電子制御の最新技術

 室内設計に用いられた素材も厳選された。本木目パネルの木材は北米原産のウォールナットを使い、1台ごとの木目を合わせて仕上げる工程には、楽器の仕上げで熟練した技術を持つヤマハの協力を仰いだ。メーターはアナログ方式だが、指針に放電管を採用し、映像として空間に浮かんでいるような自発光式のピュアトロンメーターを世界初採用した。

 ドアミラーにも世界初の超音波雨滴除去機能が盛り込まれ、ワイパーにはアームが伸縮するフルエリアワイピングシステムガ採用されるなど、初代セルシオにはエレクトロニクス最新技術も盛りだくさんだった。

 運転席に乗り込むと、その視界の良さに安心させられる。今にしてみればコンパクトなボディといえるが、当時としては大きく思えたセルシオだが、ボディの見切りは良好だった。前後に備わる歩行者や障害物を感知するソナーセンサーの音がやや煩わしいが、室内は恐ろしく静かだった。1976年にホンダからデビューした初代アコードで静粛性の高さに驚かされたが、それ以来の感動を味わったのがこの時だった。

■総合評価は高いが、果たして……

 初代セルシオが非常に良く出来たクルマだということは当時、誰もが認め、頷いた。いまでも同じ思いだ。しかし、残念なことに初代レクサスには、強烈な個性で人を惹きつけ、上級車とは何たるかを指し示すような強烈な個性に欠けていたのは確かだ。

 当時でもカローラは世界が認める優等生で、それだけで十分な価値があった。だが、高級あるいはラグジュアリーと呼ばれるクルマたちは、それだけでは不十分だ。欧州の伝統的な高級車といわれるブランドは、高品質・高性能を前提に或る意味で無駄が生む贅沢感、個性を発散して他車と明らかに異なる価値を持つ。或る意味で貴族的な階級感、差別意識に対してユーザーは対価を支払うのだ。

 果たして現在の「LEXUS LX」にそれらが備わったのだろうか。初代レクサス後の日本経済を称して“失われた20年”とも云われる今、国産車にとって何かが“得られた20年”だったのだろうか。

写真:Lexus LS500Lh

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