ルーシッドが手がけた新型EV ルーシッドエアの詳細が公開されている。ルーシッドと言えば、テスラに追いつき追い越さんばかりの勢いを持つベンチャー企業だ。行われたテストでは、最高速度378km/hを叩き出したというハイパフォーマンスEV、ルーシッド エアとはどのようなモデルなのだろうか?
恐るべき開発スピードでテスラに食らいつくルーシッドとは?
テスラの主力販売車種・モデル3が、2020年第2四半期で80050台を売り上げた。現在、世界中で最も売れている電気自動車だ。ブランドとしては2019年に、36万台を越えてシェアを伸ばし続けるテスラであるが、その後釜を虎視眈々と狙うベンチャーは多い。
アメリカのカリフォルニア州に本拠地を置くルーシッドも、その新興勢力の1つだ。そして、最も“次のテスラ”に近い位置にいると言われている。
そんなルーシッドが、2016年に発表したEVがルーシッド エアである。
元々、EVに搭載するためのバッテリー開発を行っていた行っていたルーシッドだが、EVの開発に転換したのはつい最近のことだ。
2014年よりEV開発に取り組み始めたルーシッドは、2016年に現在の社名に変更し、同年末にはもうルーシッド エアを発表していた。
驚くべき速さである。
しかし、これには理由がある。2007年に立ち上がったルーシッドの創業者は、元々テスラモータースの副社長であり、現CEOのピーター・ローリンソン氏は、そもそもテスラSのデザインを手がけた敏腕デザイナーだ。
他にも、テスラモータースから移ったメンバーが数多く在籍し、EVに関するノウハウはテスラにも引けを取らない――というより、ほぼ同じレベルにあるといえるだろう。
最高速テストでは時速378kmを記録
2016年、正式に製造と販売が発表されたルーシッド エアだが、2017年に1つのテストに望んでいる。アルファと名づけられたルーシッド エアのプロトタイプが挑んだのは、最高速度の計測だ。
最高出力1000hpを発揮するモーターを搭載したルーシッド エア アルファは、このテストで378km/hという驚異的なスピードを世界に見せつけたのである。
同時に、パワーだけではなく航続可能距離もカテゴリートップを目指した。ルーシッド エアは、一度の満充電でおよそ644kmの航続を可能にし、アクセルを踏み込んでから60マイルに到達するまでわずか2.5秒しか掛からないという。
ルーシッドは、前社名「アティーバ」であった時代、EVを用いたレースであるフォーミュラEに、バッテリーを供給していた背景がある。レースで培ったデータとノウハウは、確実にルーシッド エアにも活かされているのだろう。
また、ルーシッドはEV用電池の開発で世界を牽引するサムスンとLG化学両社とも提携を結んでいる。テスラに搭載されているバッテリー容量は100kWhであるのに対し、ルーシッド エアに搭載されるバッテリー容量は130kWhだ。ここでも、ルーシッドはテスラに対して優位性を持つことになる。
ボディラインの美しさは、日本の“あの”メーカー譲り?
デザインを見てみると、どことなく最新のマツダ車のような雰囲気があることに気が付く。それもそのはず。ルーシッド エアのデザインを手がけるのは、北米マツダのデザインディレクターとして、CX-5やMazda3、Mazda6といった日本人にも馴染みのあるモデルをデザインしてきたルーシッドの副社長・Derek Jenkins氏なのだから。
キャラクターラインではなく、面の美しさで魅せる手法はマツダが掲げる「深化した鼓動デザイン」にも通じるところがある。
氏が本当にマツダ車のデザインを参考にしたかは定かではないものの、無駄な装飾を一切削り落としたソリッドな雰囲気は、限りなく近未来的だ。
LEDをを採用したヘッドライトの形状も特徴的である。光源が帯の用に並んだ独特なデザインは、「虫」の複眼をモチーフとした。
さらに、ルーフの半分ほどまで広がった巨大なフロントガラスも目を惹く。ルーシッド エアでは、ルーフという概念すら希薄だ。
インテリアでは、車内空間の広さで度肝を抜いてくれる。
特に、リアシートにおいてそれは顕著だ。通常、シート下部には多くの部品が搭載されているため、セダンタイプのモデルではリアシートの居住性が犠牲になることが多い。
しかし、ルーシッド エアはあらゆる部品をサイズダウンすることで、そのジレンマを解消することに成功している。
ホイールベースに関していえば、BMWの7シリーズとほぼ変わらないとしながらも、バッテリーパック形状を特殊なものにするなどの工夫により、およそ60度もリクライニングすることができるという。
リアシートで、ほぼ横になる位までシートを倒す経験は、これまで誰も経験したことがないだろう。
旅客機のビジネスクラスシートを彷彿とさせてくれる。
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現在ルーシッド エアはベースグレードのエアを始め、エア ツーリングとエア グランドツーリング、特別仕様車のドリームエディションの販売を予告している。本体価格は8万ドル。
日本円で約830万円~だ。2022年よりデリバリーが始まるというルーシッド エア。EVカテゴリに、新しい風が吹くのはもう少し先になりそうだ。