今現在、筆者は一台の日産・エクストレイルを所有している。2016年式の20X HYBRIDだ。当時、他のSUVも視野には入っていたが、リアシートの居住性を重視してエクストレイルに決めた覚えがある。特別仕様車も魅力的だったが、そこまで踏み切る決心がつかず、結局通常のハイブリッドモデルを購入することになった。
その4年後の2020年6月。北米日産が次期型ローグの姿を世界に向けて初公開した。単純にローグと聞いただけではどのモデルか分からない人もいるだろうが、現行型のローグはエクストレイルの北米版。つまり、公開されたのは次期型のエクストレイルということになる。
この発表された記事を追っていて、わずかな違和感があった。浮かんだ感想は「ニッサン、大丈夫?」である。なぜなら、エンジンに関する記載が”少なすぎた”からだ。
先だって販売を開始した4代目トヨタ ハリアーやRAV4の天敵として、これまで長きに渡り競合してきたエクストレイル。現行型ローグとしては、2019年に35万台を売り上げるなど、北米日産の屋台骨として君臨している。
公開されたショットでは、都会的というよりはSUVの王道をいく、タフネスさを感じさせるマッシヴなエクステリアとなった。また、Vモーショングリルを採用したフロントフェイスはかなりのアグレッシヴさを感じさせてくれる。
また、インテリアにおいては高級感が増している。現行型ではパネルやスイッチ類に光沢感が強い素材が採用され、妙に安っぽさを感じたが、次期型ローグではシフトレバー周辺のパネルはマットになり、落ち着いた上質感のあるデザインとなった。リアシートの居住性が高いのは言わずもがなで、クラストップのヘッド&レッグスペースが確保されている。
と、ここまでくると不安材料はないようにも思えるが、本題はパワートレーンだ。
新型エクストレイルとなるであろう次期型ローグに搭載されるエンジンは、現時点では全車共通で2.4L 直列4気筒のガソリンエンジンのみ。最高出力は181PSと、11PSの出力アップが図られているものの、ユニットが1種類だけというのは少々心細くはないだろうか。
いかに、完全新型としてデビューしたキックスにe-POWERモデルが存在するからといって、エクストレイルにもハイブリッドや電動化モデルがあってもいい。それこそ、ハリアーやRAV4を相手にするのなら、そういったラインナップは必要だろう。そもそも、現行型エクストレイルにはハイブリッドモデルが存在しているのだから。
ここまではハイブリッドや電動化の話ばかりしてきたが、ディーゼルエンジンのことも忘れてはいけない。エクストレイルは2代目となるT31型で、日本国内で販売されるガソリン車およびディーゼル車に適用される、自動車排出ガス規制であるポスト新長期規制の基準をクリアした当時としては初のモデルだったという経歴がある。
ルノーが主導となり開発されたM9R型2.0L クリーンディーゼルエンジンは、V型6気筒エンジンにも匹敵するトルクと優れた燃費性能により、2代目エクストレイルのラインナップでは最も高いパフォーマンスを発揮するエンジンであった。
このまま、3代目へとモデルチェンジが行われても、より性能がアップしたディーゼルエンジンがラインナップするかと思いきや、現行型エクストレイルにはディーゼルエンジンは搭載されなかった。
正確にいうと、「日本国内仕様」にはクリーンディーゼルエンジン搭載の現行型エクストレイルは存在しない。海外向けにはちゃんと存在しているのである。そのスペックは2代目モデルに搭載していたユニットと同じものだが、環境性能・パフォーマンス共に高められ、トランスミッションも6速MTとCVTが用意されている。時代の流れに合わせ、エクストレイルのディーゼルエンジンも確実に進化を遂げているのだ。
確かに、ハイブリッド全盛の日本国内市場において、ディーゼルエンジンの投入はためらわれるのかもしれない。しかし、欧州に目を向けてみれば、乗用車のクリーンディーゼル普及率は2019年時点で31%。日本国内でも販売台数を見れば、2019年には18万台を超えている。クリーンディーゼルエンジンにも、間違いなく需要があるのだ。
e-POWER搭載のSUVという称号はキックスに譲った。なら、ハイブリッドとクリーンディーゼルエンジンの2段構えで、ハリアーとがっぷり四つに組んではどうだろう。
北米で最多販売モデルとして君臨している次期型ローグ・新型エクストレイルだからこそ、ガソリンエンジン以外の選択肢が多くてもいいのではないだろうか。
以上の理由から、次期型キックスが新型エクストレイルとして国内導入が決まったとしても、飛びつく必要はないように思える。ラインナップが広がり切ってからが、そのモデルの本領発揮なのだから。ただし、もし仮に、新型エクストレイルにもe-POWER搭載モデルが登場するのであれば、その途端に大本命の1台となることは間違いないだろう。