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時代が求めたパーソナルセダンのかたち バブル期を象徴する暴力的ともいえる加速力

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 1987年6月に日産の上級セダン、セドロック&グロリアがY31型にモデルチェンジした。そのプレス発表の場で明らかされたのが、Y31型から派生させる上級車の存在だった。そして、その派生モデルが同年の10月開催の東京モーターショーに参考出品されて大きな話題となった。時はバブル経済の絶頂期、日産「シーマ」の登場である。

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 1985年9月、先進5カ国(G5)蔵相・中央銀行総裁会議のプラザ合意による、日本経済の急速なドル安・円高に対応するため日本政府は金融緩和で、超低金利政策へと舵を切った。その経済政策が呼び水となって、カネ余りから株と不動産への投資(投機)が活況となり、日本経済史に残るバブル経済に突入していった。

■ハイソカーブームの究極

 トヨタ・ソアラという高級パーソナルカーの登場で始まった自動車業界の1980年代は、エンジン回りで「DOHC」「4バルブ」「ターボ」、シャシー回りで「4輪操舵」「アクティブサスペンション」「ABS」「トラクションコントロール」など新しいハイテクメカが続々登場、加えてエンジンのハイパワー競争に突入していた。が、自動車各社の稼ぎ頭は、イメージリーダーたる派手なクーペやスポーツモデルではなく、実直ともいえる4ドアボディにそれらハイテクを盛り込んだ高性能サルーンだった。代表は真っ白な“スーパーホワイト”軍団のトヨタ・マークⅡ・3兄弟に代表される“ハイソカー”であり、それはブームとして大きなムーブメントとなっていた。

 しかし、Y31型セドリック&グロリアの新車発表会見で明らかにされた、3ナンバー専用の派生車種について、多くのジャーナリストは「どうやら日産のコトだから“マーチをベースにBe-1が生まれた”ように、セドリックから生まれるパイクカーの一種だろう」と捉えていたのも事実だった。

 そんな1987年10月、東京モーターショーに参考出品され1988年2月にFPY31型「シーマ」が発売される。ハイソカーの“頂点”たるモデルの登場だ。正式には日産モーター店扱いの「セドリック・シーマ」と日産プリンス店扱いの「グロリア・シーマ」として市場に投入され、当時の超好景気によるフォローの風を受け大ヒットする。価格500万円超の4ドアのパーソナルセダンが爆発的に売れ、自動車専門誌だけでなくマスコミ各社、経済紙までもが“シーマ現象”と呼んだ。

 トヨタ・センチュリーや日産プレジデントなど公用ショーファーカー向けのセダンを除くと、新型シーマは国産車としてはじめて5ナンバー枠を超えるサイズを前提にデザインされたクルマだ。シャシーを含めた基本的なプラットフォームはセドリック&グロリアから流用するが、ボディはセドリック&グロリアとはまったく別設計の4ドア・ピラーレスハードトップだけという思い切った設定だ。

「シーマはひとりのデザイナーが、自由に思うがままに仕上げたクルマだ。小さなプロジェクトで予算も少なかったが、(上からの)干渉もなかった」とは、発表時に開発陣が語った言葉だ。

 だから、前席着座姿勢や後席居住性などで、かなり妥協しても、カッコ良く見せるためにルーフを低め、小さなキャビンのシルエットを優先した。それまでの高効率パッケージを優先してきた国産車づくりからは、考えられない発想のデザイン企画だった。

 ちなみに車名の「Cima」とはスペイン語で“頂点”という意味だ。ハイソカーの頂点という意味を含んでいたのである。

 そして出来上がったのは、張りのなる面と伸びやかなラインで構成されたボディだ。そのサイズは全長×全幅×全高4,890×1,770×1,380mm、ホイールベースはセドリックと同じ2,735mmだが、車重はセドリックを100kg以上重い1.6トン超だった。

 搭載となったパワーユニットは2種類で、ともに3リッターV型6気筒DOHC24バルブであり、そのNAバージョンとターボのハイパワーエンジンが用意された。最強版のターボエンジンVG30DET型は、最高出力255ps/6,000rpm、最大トルク35.0kg.m/3,200rpmを発揮した。

 このエンジンにはNICS(ニッサン・インダクション・コントロールシステム)やNDIS(ニッサン・ダイレクト・イグニッションシステム)、NVCS(バルブタイミング・コントロール)に加えて気筒別燃焼制御や過給圧電子制御など、当時として日産の持つ最高技術がすべて盛り込まれていた。組み合わせたトランスミッションは電子制御4速ATだけの設定である。

■暴力的とも云えるターボパワーの加速

 これらを支えるサスペンションなどはセドリックと同じ、前マクファーソンストラット式、後セミトレーリングアーム式の四輪独立式だ。上級グレードはこれをエアサスペンションとした仕様も設定。日産のセミトレーリング式リヤサスの特徴であった、発進時に後輪荷重となるとテールをグッと沈めて全力加速する姿勢が重量級のシーマでは助長され、ターボパワーにモノを言わせて加速するその姿は、街角の交差点を暴力的に発進する僅か“0⇒50m加速”でも目にすることができた。

 シーマは発売されるとその年に4万台近くが売れ、冒頭で述べたようにマスコミ各紙が“シーマ現象”の見出しで記事をブチ上げると、その現象はさらに加熱する。シーマはその後も3万台/年ほどの売上を示す。500万円超の高価格車が、である。まさに“バブル”だった。

 北米の高級ブランド戦略を進行中だったトヨタや日産にとって、その主力モデルとして開発していたレクサスLS/セルシオやインフィニティQ45などの国内市場投入を決意させたのも、この“シーマ現象”があったからだとされている。

 ただ、プラザ合意が引き金となった“バブル景気”は、その崩壊とその後の“失われた20年”といわれる経済不況を招く。日産は90年代後半に経営不振に陥り、仏ルノーの傘下に入る。

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