2020年3月に、ロールス・ロイスがドーンに特別なモデルを追加すると発表した。世界限定50台となるドーン シルバーバレットコレクションは、4シーターのドロップヘッドモデルであるドーンから、リアシートを取り払ったモデルとなる。内外装に特別なシルバーがあしらわれたシルバーバレットコレクションは、ただの贅沢品なのだろうか?
4シーターを2シーターに
ロールス・ロイスが、同ブランドの『ドーン』に世界限定50台のシルバーバレットコレクションを追加して発売すると明らかにしたのは2020年3月のことだった。
この特別仕様車最大の特徴は、なんといっても4シーターオープン(イギリスではドロップヘッドと呼称する)であるドーンから後席を取り払い、贅沢な2シーターに仕立てたことだろう。
いわば、ドーンのシルバーバレットコレクションは、元々2シーターコンバーチブルであるレイスの「オープンカー」だとも言えるが、ロールス・ロイスが生み出す芸術品が、そのような単純なものであるはずがない。
例えば、ボディはその約80%が新しくデザインされた。そのうえで、音の無い舞踏――“サイレント・バレエ”と呼ばれる世界で最も静かで、美しく優雅なソフトトップ開閉シークエンスが与えられている。
このサイレント・バレエは走行中でも、時速50km/hであれば動作可能で、開閉に掛かる時間はおよそ22秒だ。幌をオープンにして路肩に駐車していると、通行人の多くは恐る恐る遠巻きに中を覗き込むことになるだろう。
シルバーモチーフの専用装備
エクステリアカラーには、シルバーバレットという名前が示す通りに専用のシルバーカラーを採用した。同時に、シルバーを引き立てるようにヘッドランプやバンパーフィニッシャー、ホイールなどにはダークカラーをアクセントに用いる。
また、インテリアでは特別装備としてシート背後のトノカバーに、ウェットブラストで仕上げたチタニウム製のウィンドディフレクターを装備。
ダッシュボードには、表面処理をあえて省いたカーボンファイバーを用いることで、素材自体の“表情”を残した。センタートンネルのレザートリムには、革製ジャケットを連想させるキルティングが施されている。
搭載されるエンジンは、ベースとなった現行型ゴーストに搭載されたユニットをドーンよりそのまま引き継ぐ6.6L V型12気筒ツインターボエンジンだ。最高出力は570PS、最大トルクは820Nmを発生させる。最高出力632PSを発揮するレイスよりも僅かに抑えたスペックではあるものの、それでも余りある。
同じエンジンを積む4シーターのノーマルなドーンが0-100km/h加速は4.9秒、最高速度は250km/hを公称しているので、2シーターとなったシルバーバレットはそれよりも早く、まさに銀の弾丸のごとき加速を見せつけてくれるはずだ。
ロールス・ロイスの「夜明け」となったモデル
日本国内で、ベースのドーン自体が発表されたのは2016年。日本へ正式に上陸を果たしたのはそれから1年遅れた2017年だった。“Dawn”、英語で夜明けを意味するこのモデルは、ロールス・ロイスが1954年に開発した『シルヴァードーン』に着想を得ているという。
戦後初の自社生産ボディをまとったシルバードーンは、ロールス・ロイスの夜明けだったのかもしれない。そして、21世紀版のドーンはロールス・ロイスとしては最もコンパクトと言われたシルバードーンの面影を残しつつ、全長5295mm全幅1945mmのビッグサイズと3110mmという長大なホイールサイズを手に入れた。その大きなボディに、2人しか乗せないというのだからシルバーバレットコレクションは究極の贅沢だ――というのは、きっと庶民の感覚なのだろう。ロールス・ロイスからすれば、新たな世界感を生み出したという認識に違いない。
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ロールス・ロイスが生み出してきた革命的なモデルのコンセプトを、21世紀の技術で再定義するドーン シルバーバレットコレクションは、現在発売時期は未定、価格も同様である。通常モデルのドーンが本体価格4085万円、高性能モデルにあたるブラックバッジ・ドーンが本体価格4690万円となっているので、それよりも高くなることが予想される。