2019年、マクラーレンは新機軸を打ち出した。ブランド初のグランドツアラーとして誕生したマクラーレン GTは、従来のラインナップのようにひたすら動力性能を追求したモデルではなかったのである。では、本当にマクラーレン GTはマクラーレンの異端児だったのだろうか。
躍進しつづけるマクラーレンと新たなジャンル
現在のスーパーカー市場で、存在感を大きくアピールしているのがマクラーレンである。
2009年に創設された新生マクラーレンオートモーティブは、2011年にブランドとして初めての量産車であるMP4-12Cを市場に投入した。その歴史は浅いが、2019年には日本国内で353台を販売しているなど、スーパーカーブランドとしてフェラーリやランボルギーニに続いている。そんなマクラーレンが2019年に発表したのがマクラーレン GTである。
マクラーレンのラインナップは、そのモデルの素性と性能に応じて「アルティメット」を頂点とし、「スーパー」と「スポーツ」という3つの区分が存在しているが、このマクラーレン GTはそれらどのシリーズにも属さない完全独立したモデルとして誕生した。”GT”とは、グランドツアラーであることを示しているが、マクラーレンとして、明確にグランドツアラーモデルを発表したのは初めてのことである。
ラゲッジスペースを備えたマクラーレン GT
このマクラーレン GTだが、他のラインナップと大きく異なる点がある。それは、マクラーレンのモデルでありながら、大きなラゲッジスペースを確保している点だ。
エンジンをミドシップレイアウトとしているマクラーレン GTではあるが、エンジン自体の位置を下げることにより420Lもの容量を確保した。往年のスーパーカーファンからすれば、これは驚くべきことだろう。
ラゲッジスペースの形状から、深さは余り取られていないものの、長さは充分だ。ミドルサイズのゴルフバッグ位なら難なく積み込める。
また、他のラインナップと同じく、フロントにもラゲッジスペースがある。こちらはリアのラゲッジとは異なり深さのある空間となっており、容量は150Lだ。
フロントとリアのラゲッジ容量を合計すると、570Lとなる。2人分の旅行カバンならものともしない。まさに、グランドツアラーと呼ぶに相応しい。
キャラクター性の違いを主張するエクステリア
マクラーレンのラインナップで、どれにも属さないGTであるから、エクステリアも既存のファミリーとは異なるデザインが与えられた。
ヘッドランプやフロントフェイスは、鋭さを抑えた比較的穏やかな雰囲気となり、サイドに回ってみると緩やかなラインがエアインテークへ流れ込んでいるようにも見える。ウィンドウサイドを彩るクロームメッキもGT特有のデザインだ。
一方、リアこそマクラーレン GTをGTらしく見せてくれる、個性的な部分である。ファストバックスタイルを採用しているマクラーレン GTは、ルーフ半ばから始まる大きなリアウィンドウがテールまで途切れなく流れる。
インテリアで特徴的なのは、12.3インチの液晶メーターパネルに寄り添うように配置された、7インチの縦型タッチスクリーンであろう。航空機で用いられている表示方法と、グラフィックスを模したというこのスクリーンが、まさにコクピットを連想させる。
ここで挙げた以外にも、マクラーレン GTはエクステリア/インテリア問わずさまざまなカスタマイズが可能だ。自分だけの1台に仕立てられるのも、マクラーレン GTの良さだろう。
ツーリングカーならではの快適さ
グランドツアラーを名乗っている以上、乗り心地や快適性も重視されるべきだ。
マクラーレン GTには、乗員に快適性を提供するため720Sをベースとして最適化されたプロアクティブ・ダンピングコントロールを始めとしたステアリングシステムを採用している。このプロアクティブ・ダンピングコントールこそ、GTが持つ快適さのキモだ。
このシステムは、路面状況によって動くサスペンションの動きをセンサーで検知。0.002秒後には、コントロールユニットが次の動きを予測して即座に対応するという。非常に難解なシステムであるが、簡単にいってしまえば、道路状況を予測する機能を持った高性能なサスペンションシステム、ということだ。
さらに、マクラーレンの代名詞でもあるカーボンファイバー製シャシーも、進化を遂げた。モノセルⅡ-Tと名づけられたこのシャシーは、高い剛性を誇るだけではなく軽量だ。普段使いを意識したステアリングやブレーキ特性もあいまって、街中での動きも軽快に仕上がっている。
4.0LのV型8気筒ツインターボエンジンを搭載し、最高出力620PS、最大トルク630Nm、トップスピードは326km/hに達するGTだが、低~中速度域でも心地のいい走りを堪能できるだろう。
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マクラーレンのモデルといえば、これまでピュアに足の早さを味わうための純粋なスポーツカーだった。しかし、GTは違う。マクラーレンファミリーでありながら、実用性と快適性を備えている。
そのうえで、もちろんスポーツカーとしての本懐は忘れていない、“尖ってない”と言う人もいるかもしれない。しかし、使いやすさと走りを究極のバランスで実現しているという部分こそ、マクラーレン GTの真の魅力ではないだろうか。