液状タイプのコーティング剤が一般的となった今、洗車場でワックスを使う人は本当に少なくなった。
そんな固形のワックスの老舗として、1947年から現在に至るまで作り続け、確固たる地位を築いているメーカーがある。それが、シュアラスターだ。
今回は、高級ワックスメーカーとして高品質なワックスを作り続けるシュアラスターのワックスの魅力について迫る。
自動車の広がりとともに成長したシュアラスター
カー用品チェーン店に足を運んだり、通販サイトを眺めていると多くのメーカーがワックスを製造・販売しているが「シュアラスター」のワックスは特別に映る。
シュアラスターとは、1947年にアメリカの化学者だったジョセフ・ロビンソンが、天然由来の材料を元にしたワックス開発を始めたことに端を発する老舗のワックスメーカーだ。1949年には本格的なワックス製造を開始し、1955年には日本での販売を開始している。
70年以上前に、“ワックス”という概念が存在していたこと自体驚きだが、シュアラスターのワックスはその品質の高さからアメリカ全土でシェアを拡大し、1968年には市場占有率は80%に達した。
1940年代から自動車の大量生産を始めていたアメリカ。1960年代には今でも語り継がれるような名車を多く生み出している。
シボレーはインパラやカマロ、コルベット。そして、フォードはマスタングやサンダーバード。さらに、シェルビーのコブラなど、今でこそヴィンテージカーと呼ばれるモデルばかりだが、当時は黄金期と言われるほどアメ車が輝いていた時代なのだ。このようなモデル達を、文字通り“輝かせて”いたのがシュアラスターのワックスなのである。
実際、1968年にはGM・キャデラックの指定ワックスにシュアラスターは選ばれている。近年では、メルセデスのディーラーでもカーケアのためのアクセサリーとして、シュアラスターのワックスが販売されていたのを見たことがあるオーナーもいるかもしれない。
シュアラスターが愛されるワケ
前置きが長くなったが、シュアラスターのワックスは一般的なワックスと比べて何が優れているのだろうか?その答えは成分にある。
前述したようシュアラスターのワックスに用いられている成分、そのほとんどが天然由来のものだ。この成分はカルナバ蝋である。
カルナバ蝋は、ブラジルで自生栽培されているカルナバヤシの葉から採取されるロウを指す。ロウの女王とも呼ばれるカルナバロウは、食品添加物として用いられることもあり、その他、化粧品や医薬品にも使われることがある。
人の口に入っても大丈夫、ということは完全に植物性ということだ。つまり、クルマの塗装被膜に悪影響を与えることがない。
また、石油を原料としているワックスは、匂いを嗅ぐと油臭く感じられるが、シュアラスターのワックスはエキゾチックなムスク系の香りを漂わせるので、実際に比べて見てほしい。
たしかに価格はそれなりにする。amazonの参考価格では1000円ちょっとで購入できるような安価な製品が溢れている中、シュアラスターのワックスは倍以上、中には4000円以上する高級品も存在している。
だが、どうせなら良いものを使いたくなるのは、クルマを愛する人たちにはきっと分かってもらえると信じている。
カーコーティングか?ワックスか?
では、カーコーティングとワックスはどのように違うのだろうか。これまで散々ワックスの話をしてきたが、カーコーティングも決して悪ではない。カーコーティングにも、カーコーティングならではのメリットが存在する。
ちなみに、ここでいうカーコーティングとはガラスコーティングなどを用いて、ボディ表面の塗装被膜にガラス質の膜を形成することを指している。
たとえば、カーコーティングのメリットは、なんといってもメンテナンスが楽なことである。ワックスに比べて耐久性もあるため、施す施行内容によっては数年間の耐久性を備える場合もある。加えて、防汚性も高く、親水/撥水など選択も可能で機能的だ。
こうしてみると、ワックスを使うメリットは少ないように見えるが、そもそもワックスを使おうと思っているオーナーは、メンテナンスの楽さや便利さは求めていないはずだ。
ワックスが与えてくれる最大のメリットは、その吸い込まれるようなボディの艶である。ワックスが生み出す深い艶は、カーコーティングには決して出せない。
現在では、素人でも楽に作業が行えるスプレータイプのカーコーティング剤が一般的だ。シュアラスターからも、そういった製品がシリーズとして販売されている。
しかし、ワックスで仕上げた後に得られる感動的なまでの艶は、ワックスのみによって得られる尊いものなのだ。
シュアラスターのラインナップをチェック
ここで、いくつかシュアラスターの代表的なワックスを紹介しておこう。
シュアラスターのワックスは、艶と光沢レベルにより4段階に分けられている。中でも最も高いグレードのワックスが、マスターワークスと名づけられたワックスだ。
このマスターワークスは、天然カルナバ蝋のなかでも最高級のコスメティックグレードとされる原料を元に造られている。コスメティックグレードとは、1%しか採取されないカルナバヤシの最も若い葉を元に抽出される成分だ。
これを、オートメーションによる大量生産ではなく、職人が1つずつ手作業で缶に充填(じゅうてん)していく。固形化にも熱を加えることなく、24時間かけてゆっくり丁寧に固められたワックスは、塗り込み・拭きあげも楽に行え、艶の深さと輝きは抜群だ。
過去には、マスターワークスを施行する専用のセットが限定1,000個、10,000円で販売されたこともある。
次は、マンハッタンゴールドだ。
実は、先ほど挙げたマスターワークスは比較的新しいレーベルである。マスターワークスが販売される前まで、シュアラスターワックスのフラッグシップを務めていたのがマンハッタンゴールドなのだ。
濡れたボディに対しても施行が可能であり、液体ワックスや一般的なワックスとは一線を隠した艶を与えてくれる。マスターワークスが4000円ほどするのに対し、マンハッタンゴールドは2000円ほどで購入できるため、比較的にリーズナブル。
シュアラスターワックスの入門品としてもおすすめしたい一品だ。
サービスに溢れた現代だからこそ
クルマのボディのメンテナンスを行う上で、切っても切れないのがカーケア商品である。さまざまなサービスにあふれた現代においては、3万円弱支払えばプロショップで専門的なコーティングをしてもらうことができ、ガソリンスタンドでもそういったサービスを展開してる所もある。
レクサスでは純正のオプションとしてボディコートを用意しており、日産はそもそもコーティングが必要なくなるほどの耐久性を持つと謳うスクラッチシールドという技術を採用しているモデルも存在している。
愛車のメンテナンスを他人の手にゆだねる、というのも大いに結構だ。プロの職人による作業は品質的にも安心でき、なにより手間がかからない。コーティングやメンテナンスのメニューを決めて、お金を払ってクルマを預けるだけで済むのだ。便利な世の中になったものである。
しかし、世の中にはボディのメンテナンスはどうしても自分でしたい!という層が一定数いるのも事実である。何を隠そう筆者もその一人なのであるが、クルマのエンジンや電装系などはメンテナンスする知識や技術がなかったとしても、ボディのお手入れくらいはこれからも自分で行いたいのだ。
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目玉が飛び出るほどの価格が付けられた超高級車を車検ごとに買い替えて、運転手付きでクルマに乗っているようなオーナーでなければ、自分の愛車には手をかけたいはずだ。
事実として、シュアラスターのワックスに限らずすべてのワックスは手間がかかる。だが、ボディ表面に付いた汚れを落とし、ワックスを塗り込んで自ら磨き上げた先に生まれる深い艶は、何物にも代えがたい満足感を生むだろう。
時間と手間がかかる作業だからこそ、より一層の愛着がクルマに湧く。それもまた、シュアラスター、ひいてはワックスの魅力なのだ。