2020年9月16日、日産が次期型フェアレディZのプロトタイプをオンラインで公開した。ギリギリまでマイナーチェンジなのか、フルモデルチェンジなのかすら明かされていなかった新型Zであるが、今回の発表により12年ぶりの全面刷新であることが判明。ファン待望の新型フェアレディZは、何を継承し、何を新しく得たのだろうか。
鮮やかなイエローカラーをまとって登場したプロトタイプ
フェアレディZに何らかの動きがある――これは、ファンのみならず周知の事実であった。日産が2020年5月に公開した『Nissan Next A-Z』にて、フェアレディZのプロトタイプの存在を予告。同年8月より放送が始まった『やっちゃえNISSAN 幕開け編』映像内では、アンサバダーとして就任した木村拓哉氏が初代Zの上位グレードであった240ZGのステアリングを握る姿が映し出されていた。
少し遡って2020年5月に同社が発表していた事業構造改造計画では今後1年半の間に12の新型を市場に投入されていたこともあいまって、フェアレディZの新型がそう遠くない未来に登場する、想像に難くなかったワケである。
否が応でも期待が高まっていたわけだが、待ちに待った9月16日の午前9時30分。次期型フェアレディZのプロトタイプが、遂にヴェールを脱いだ。コンセプトカラーとして初代S30系とZ32系・300ZXに設定されていたイエローをイメージした、イエローパールカラーを身にまとって登場。フェアレディがZ32系になるまでに採用していた、古典的とも言えるロングノーズスタイルを現代風に解釈したスタイルで、再び我々に姿を現したのである。
各所に散りばめられた歴代モデルのオマージュ
歴代“Z”へのオマージュは、ロングノーズスタイルだけではない。新型フェアレディZプロトタイプの各所に、レトロフューチャーなデザインとして取り入れられている。
まず、最もそれが顕著なのが、フロントに大きく口を挙げたグリルの開口部であろう。この開口部については、先に挙げた動画『Nissan Next A-Z』内でも、シルエットながら確認できていた部分だ。
この大きな長方形の開口部は、S30系のフロント開口部をモチーフとした部分。今ここで、それは叶わないが、新型のプロトタイプとS30系を並べて見ると一目瞭然。プロトタイプの開口部は、S30系のそれよりも上下に拡大しているものの、グリルの雰囲気だけでプロトタイプは「Zが還ってきた」と思わせてくれる。
フロント部分で更に言及するのなら、ヘッドランプは外せないだろう。LEDを“コ”の字で囲むように配置された複雑な造形のアクリルの形状は、240ZGの『Gノーズ』のヘッドランプをモチーフとしたものだ。240ZGは、ヘッドランプにカバーが取り付けられており、ここにライトが当たると反射して丸い輪を描く。プロトタイプの“コ”の字は、これを現代に甦らせるためのものだ。
さらに、ルーフラインも「先祖返り」を行った。Z33~Z34系ではルーフラインの終わりは少しつまむような形状、つまりダックテールで僅かに跳ね上がるようなデザインが採用されていたが、新型のプロトタイプではそれをなくし、ストンと斬って落とす、かつてのデザインが用いられた。リアウィンドウの後ろに取り付けられたZのバッジも、240ZGを髣髴とさせるニクい演出である。
リアは、300ZXをイメージした。Z33/34のように、ブーメラン形状で折れ曲がって左右で独立したテールランプではなく、横長で幅の広いテールは本当に300ZXを今の技術でもう一度作り直したようにも見える。
また、リアに取り付けられている“Fair lady Z”のエンブレムは、S30系と全く同じ書体を用いた、あえて古さや懐かしさを残した部分となっている。日産は、こういったちょっとしたパーツを用いた演出が上手い。過去にはフラッグシップ・シーマに、初代のインテリアをモチーフにしたアナログメーターを採用したり、車名バッジの書体を今回の新型Zプロトタイプのように当時のモノを採用した実績があるからだ。
モダンだが、最先端のインテリア
インテリアでは、今回公開されたプロトタイプはボディカラーと同様のイエローをアクセントに用いたコーディネイトがされていた。ブラック×イエローの組み合わせがなんとも鮮やかでスポーツカー然としている。
ステアリングは、スポーク部分にピアノブラック仕上げを採用し、各種操作系のスイッチを備えている。予告動画にも映し出されていたように、マニュアルトランスミッションのシフトレバーとハンドサイドを装備。現行モデルの多くがフットペダル式のサイドブレーキを備えている中、あえてハンドサイドを採用したということは、新型フェアレディZはいわゆる運転支援系の装備を搭載しない可能性が高い。
あくまでも、純粋なスポーツカーとしての姿を追求するということなのだろう。
そうしたレトロな雰囲気が漂う一方で、12.3インチの高精細ディスプレイといわゆるタコメーターを連想させる3連メーターが目を惹く。中央のモニターも大型で、こちらには物理スイッチではなくタッチ式の操作系を採用した。各種スイッチやモニターの配置は、運転中にドライバーが一目で全てを把握できるような拘りの配置になっているという。
コクピット自体は、「包まれ感」を重視したタイトな作りとなっている。アルカンターラ、本革、メッシュという異なる素材を用いたシートは、抜群の座り心地とロングドライブでも疲れにくい設計となっていることが予想される。純粋にドライブを楽しむためのインテリアデザインは、フェアレディらしさの体現ともいえる。
歴代最強となるか?V型6気筒ツインターボエンジンを搭載
今回発表されたフェアレディZプロトタイプには、V型6気筒のツインターボエンジンが搭載される。
このエンジンは、スカイライン400Rに搭載されているVR30DDTT型エンジンと同じモノではないかとも言われているが、もしそれが本当に実現するのなら、3.0Lで最高出力405PS最大トルク475Nmを発揮する走行性能に優れたユニットである。
日産V6エンジンの本質は、針の穴を通すようなシャープなアクセルレスポンスと、環境性能の両立だ。全長4382mm×全幅1850mm×全高1310mmである新型フェアレディZは、全長4815mm×全幅1820mm×全高1440mmのスカイライン400Rと比べても、間違いなく軽い車重となる。まだプロトタイプが公開されたばかりで時間はかかるだろうが、新型Zの走行性能はかなり高いものになると予想される。もしかすると、“史上最強”を謳うモデルになるのかもしれない。
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新型フェアレディZプロトタイプは、シンプルに古い車(あえてそう言わせて頂く)のデザインを今のモデルで再現しているというワケではない。最新のデザインをベースとして、どこか過去の存在を僅かに感じさせるようなデザインとなっている。
そこには恐らく、遊び心のようなものも多いのだろう。
しかしそれはファンにとっては嬉しいことであり、トヨタのスープラが復活した時以上のインパクトがある。
日産というメーカーにとっても象徴的な歴史を持つフェアレディZ。
公開されたプロトタイプの姿を見て、当時の記憶がフラッシュバックした方も多いのではないだろうか。
颯爽と街道を走っていく初代S30系に抱いた憧れ……新型となるだろうフェアレディZプロトタイプは、Zカーの復活を高らかに宣言する日産のメッセージだ。
たくさんの写真でフェアレディZを紹介しよう。