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第4章 国産初の四輪独立懸架のフツーの乗用車誕生、P510型「日産ブルーバード」

ピニンファリーナの青い鳥、P410の失敗を受け、後に和製BMWと言われるスポーツセダン日産P510型「ブルーバード」が、1967年8月9日に誕生する。P410系はRT40型トヨタ・コロナにトップセラーの座を奪われていたが、起死回生の首位奪還を目指した。

 1960年代半ばのファミリーカーと呼べる国産乗用車は事実上、トヨタ・コロナと日産ブルーバードの一騎打ち状態だった。日産のP310型初代「ダットサン・ブルーバード」は、ダットサンブランドが培ってきた堅牢さで、タクシー業界で圧倒的に支持され、1000cc~1200ccクラスを席捲した。

 その後のモデルチェンジで1963年9月にP410型に移行するのだが、当時の国産メーカーの流行とも云える“イタリアンデザイン頼み”にダットサン・ブランドも走る。ベルトーネのマツダ・ルーチェ、ジウジアーロのいすゞ・フローリアン&117クーペ、ヴィニャーレのダイハツ・コンパーノなどに倣い、模倣し、伊ピニンファリーナに新型ブルーバードのデザインを依頼する。ボディ&シャシーは完全なモノコック構造となり、310型から移植した基本メカとの融合も問題なく完了し、欠点の無いクルマだった。

 しかし、市場はその“尻下がり”のスタイリングを受け容れなかった。

■最新のOHCエンジンとスタイリッシュな外観を得た510(ゴーイチマル)型

 技術の日産の面目躍如といえる3代目「510型ブルーバード」が登場したのは、1967年8月9日で、日産首脳は敢えて仏滅の日にプレス発表会を実施した。

 発表会で日産は新型開発にあたって、「ビス1本まで新型だ」としたメカニズムだけでなく、先代で不振だったスタイリングにおいても最新のモードに刷新した。なかでも、エクステリアはウェッジシェイプ・デザインとされ、超音速旅客機SSTをイメージしたという直線的な「スーパーソニックライン」と呼んだキャラクターラインが目を引くスタイリッシュな外観を手に入れた。また、国産車で初のフロントドアガラスから三角窓を取り去った、すっきりしたウインドウグラフィックとなった。

 新開発のエンジンはそれまでのOHV型から高回転までスムーズに回るOHC型となる新世代L型エンジンに大きく進化した。デビュー時はベーシックなモデルには1.3リッターにシングルキャブレターを組み合わせたL13型・直列4気筒エンジンを搭載した。

 1296ccのL13型エンジンは、1965年に登場した2代目の日産セドリックに積まれた日産初のOHCエンジンである2リッター直列6気筒のL20型から2気筒分カットしたような構造だった。ボア×ストローク83.0×59.9mmの超ショートストロークタイプのエンジンで、その最高出力は先代比プラス10psの72ps/6000rpm、最大トルクは10.5kg.m/3600rpmを発揮した。当時のライバル、RT40型トヨタ・コロナの1.5リッターOHVエンジン(70ps)を上回るパワーを得ることに成功した。

【Nissan_ Bluebird P510】
1969年にマイナーチェンジを受けた510型。日産自動車で丁寧にレストアされたモデル。SSS系搭載のL16型1600ccエンジンをシングルキャブエンジン仕様にディチューンして搭載した「ダイナミックシリーズ」だ。4速MTの独特のシフトフィールが印象的だった

■タフな足回りで世界のラリーで活躍、スポーツセダンとしての名声を獲得

 フラッグシップセダンのSSSには、排気量を拡大した1595cc直列4気筒OHCにSUツインキャブレターを組み合わせたL16型エンジンが搭載された。このL16型エンジンはデビュー時に最高出力100ps/6000rpm、最大トルク13.5kg.m/4000rpmを発生していた。この高性能エンジンを搭載した510系SSSの車両重量915kgに抜群の動力性能を与えた。

 サスペンションは当初の設計では410系を踏襲した前ダブルウイッシュボーン式、後リジッドアクスル式とする予定だった。が、開発途中で独BMWが先鞭を付け、以降の高性能小型ファミリーセダンで主流となる四輪独立懸架式に変更された。

 フロントはマクファーソンストラット&コイル独立、リアはセミトレーリングアーム式独立となり、以後の日産FR(後輪駆動)車の定番リア独立懸架 “セミトレ”の誕生である。このセミトレ式サスペンションは、優れた操縦安定性と上質な乗り心地を両立し、高速走行だけではなく当時日本でまだまだ主流だった未舗装路(ダートやグラベル)も意識し、堅牢さも兼ね備えた設計が施された。

 事実、510型SSSの速さとタフネスさは、石原裕次郎主演で石原プロが製作した映画「栄光の5500キロ」にもなった510型SSSによる1970年の「サファリラリー」優勝で実証されている。

 組み合わせるトランスミッションは3速マニュアル(MT)コラムシフトがベーシックモデルに搭載。SSS系は4速MTフロアシフトが採用され、1968年からはベーシックモデルにも4速MTフロアシフトが採用される。この4速MT、シフトゲートがやや曖昧だが“熱したナイフでバターを切る”と表現された独特な感触のシフトフィールを持ったポルシェ・シンクロが組み込まれていた。

 510型は発表以来好調に販売が伸び、国内では1万台/月をコンスタントに達成し、「B vs C戦争」といわれたトヨタ・コロナとの激しい首位争いを繰りひろげた。

【Nissan Bluebird 510 SSS】
 “スポーツセダン”としての地位を確立した510型ブルーバードSSSセダン。写真はマイチェン後のモデルで、1770ccのキャパシティから115ps/6000rpmを発揮したL18型エンジン搭載モデル。サファリラリー優勝車と同じサファリブラウンは当時、憧れのボディカラーだった

■70年代の高速時代を見据えマイナーチェンジで排気量アップ、2ドアクーペの追加

1969年に510型はマイナーチェンジを受ける。フロントグリル、ダッシュボード、ヘッドレスト付きセパレートシートになるなどの装備・デザイン変更と安全性の強化が実施された。同時に、SSS系搭載の1.6リッターエンジンをディチューンしたシングルキャブエンジン搭載した「ダイナミックシリーズ」が追加され、スポーティな2ドアクーペがラインアップに加わった。

 ダイナミックシリーズのセダンは全長×全幅×全高は4120×1560×1410mm、ホイールベース2420mm。車重930kgだった。SSS系から移植した1.6リッター4気筒L16型エンジンはシングルキャブ仕様ながら高回転までスムーズに回り、最高出力92ps/6000rpm、最大トルクは13.2kg.m/3600rpmを発揮した。組み合わせたトランスミッションは、SSS系と同じフロアシフトの4速MTである。

 さらに翌年、1.3リッターエンジンを85ps/6000rpmの1428ccのL14型エンジンに換装。SSSシリーズはセダン、クーペ共に1770ccの115ps/6000rpmのL18型エンジンに換わる。結果、ブルーバード510系は“スポーツセダン”としての地位を確立した。

【P510_Coupe】
トヨタ博物館所蔵の美しいレモンイエローのソリッドカラーに塗られた日産510型ブルーバード・クーペSSS