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第4章 GM「Jカー」準拠セダン「アスカ」 いすゞ独自開発FF「ジェミニ」

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1980年代、GMグループのワールドカー構想「Jカー」の日本(いすゞ)バージョンとして1983年3月に登場した上級4ドアセダンが「いすゞ・アスカ」だ。同じワールドカー構想から生まれた初代ジェミニがRWDだったのに対し、「Jカー」アスカは中型FWDセダンとして設計されたモデルだ。

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 いすゞ・アスカは、米GMのキャデラック・シマロン、シボレー・キャバリエや欧州オペル・アスコナ、豪ホールデン・カミーラなどと基本的に共通車台を持ったクルマで、当初は「フローリアン・アスカ(ASKA)」の名で登場した。つまり、フローリアンの後継として位置づけられたモデルだった。その後、1985年にフローリアンの冠名が外れ「アスカ」となった。

静かな人気モデル、4ZC1-T型2リッターターボ搭載「ASKA」

 アスカは不思議なクルマで、どうやらふたつの対照的な性格を持っていた。一般的な評価は、ふつうの4ドアFFセダンとして何の感慨も無くビジネスライクに使うクルマという側面。いっぽう、そのスタイリングから受ける凡庸とも云えるイメージとは裏腹に、スポーティなFFサルーンとして敢えて選択する“いすゞファン”も少なくなかった。

 Jカーシリーズは、それぞれの国に合わせて最適なパワーユニットが搭載された。アスカには、いすゞが新開発した4ZB1型1.8リッター4気筒OHCと4ZC1型2リッター版、2リッターのターボ版4ZC1-T型、そしていすゞの真骨頂4FC1型2リッターディーゼルと4FC1-T型ディーゼルターボが搭載された。

 云うまでもなく、スポーティ派に支持されたのは最強版の2リッターガソリンターボ車で、ボア×ストローク88.0×82.0mm、ショートストロークタイプの4ZC1-T型1,994cc直列4気筒OHCターボチャージャーで、最高出力150ps/5,400rpm、最大トルク23.0kg.m/3,000rpmを発生した。

 装着したIHI製ターボは50mmφの小径タービンを採用し、電子コントロールによりレスポンスの良さを追求して高い過給圧を得ていた。乗り味はターボの効きが自然だが、高回転まで軽々と吹き上がり、追い越し加速時などでのリニアなパワー感が注目された。

 このターボユニットが、全長×全幅×全高4,440×1,670×1,375mm、ホイールベース2,580mmの快速サスーン、アスカにスポーティな味わいをもたらした。

 アスカの足回りは、前マクファーソンストラット式、後トレーリングアームの四輪独立式だが、ターボ車に1984年9月、ドイツの名チューナーであるイルムシャーが、ベースのサスペンションをスポーティにチューンし、エアロパーツを装着、インテリアにレカロ製バケットシートやMOMO製ステアリングなどを配した「イルムシャー仕様車」を追加した。

 アスカには5速MTのほか、3速ATに加えて、コンピュータが変速操作を行なう石地独自の2ペダルツ+5速セミオートマチック「NAVI-5」が設定されたが、2リッター・ガソリンターボ車は、5速MTだけの設定だった。

 コンベンショナルにまとめられた「アスカ」は、見た目の派手さは無いが、嫌みのないクリーンな印象が、いすゞ・ファンに支持され1990年まで生産された。

いすゞ完全オリジナルの小型車、FWD「ジェミニ」登場

 1985年5月、いすゞは小型車ジェミニをフルモデルチェンジし、2代目FWD「FFジェミニ」を送り出した。

 米GMとのパートナーシップによるワールドカー構想から生まれたRWDだった初代ジェミニを継ぐモデルだ。いすゞ独自設計の小型車であり、ワールドカー構想に則ったFWDのオペル・カデットとの共通性はまったくない。しかし、このFFジェミニはGMの世界小型車戦略に組み込まれたのは間違いなく、姉妹車のシボレー・スペクトラムとして1984年11月から北米に輸出し、その後、オーストラリアにも輸出された。

 ピアッツァなどと同じく伊カロッツエリアの名デザイナー、ジウジアーロがデザインしたとされるボディは、3ドアハッチバックと4ドアセダンの2種だが、フロントデザインにいすゞ社内の手が入った“リ・デザイン”にジウジアーロが難色を示し、デビュー時には氏のデザインであることは伏せられたという。

 ボディサイズは全長×全幅×全高4,035×1,615×1,370mm、ホイールベース2,400mmとコンパクトであり、ハッチバック車の全長はさらに短い3,960mmだった。

 前輪を駆動する搭載エンジンは当初、新開発の軽量な1.5リッターOHCユニットで、ボア×ストローク77.0×79.0mmの1471cc直列4気筒だけだったが、すぐに1,487ccの直列4気筒ターボディーゼルがラインアップされた。4XC1型ガソリンエンジンの出力&トルクは、9.8の圧縮比から、最高出力86ps/5,800rpmと最大トルク12.5kg.m/3,600rpmを得た。いっぽうのディーゼルターボユニットは、太いトルクが自慢のエンジンで、70ps/5,000rpmと13.8kg.m/2,500rpmを発生した。

スポーティ・ジェミニ、「イルムシャー」と「ハンドリングbyロータス」

 1986年6月には、OHCガソリンエンジンに水冷式インタークーラー付きターボを搭載し、レカロ製スポーツバケットシート、MOMO製ステアリングホイール、CIBIE製フォグランプなどの装着でスポーティな意匠とした「1.5イルムシャー」を追加。ターボエンジンは120ps/5,800rpm、18.5kg.m/3,400rpmを発揮した。このイルムシャーにはターボ過給圧を2段階に変化させるターボパワー・セレクターが備わり、LOWに設定すると105ps/5,400rpmになり、燃費を稼ぐことができた。

 このユニットと組み合わせたトランスミッションは、アスカと共通の5速MTと3速ATのほか、2ペダルセミATのNAVI-5の設定車もカタログに掲載された。

 さらに1988年、4XE1型1,588ccの本格派直列4気筒DOHC4バルブエンジンを積み、英国ロータスが足回りなどをチューニングした「ZZハンドリングbyロータス」ガ追加された。ブリティッシュグリーンに塗られた「ZZ/SEロータス」グレードには、レカロシート、MOMO製ステアリングのほかにBBS製の鍛造ゴールドメッシュのアルミホイールが装備されていた。ついでこのエンジンを搭載した「1.6イルムシャー」も登場する。

 DOHC化にあたってシリンダーヘッドをロータスが設計したとされる美しいヘッドカバーを持ったこのDOHCエンジンはレギュラーガソリン仕様ながら最高出力130ps/7,200rpm、最大トルク14.5kg.m/4,200rpmを発揮した。このテンロクDOHCは、1989年に2代目ロータス・エランにも搭載された。

 英ロータスはいすゞと組む以前、トヨタと協働で新しいスポーツカーの開発を進めていた。しかし、1986年1月にGMによってロータスは買収され、トヨタとの協働は中止。改めていすゞ製4XE1型DHOCのNAバージョンと4XE1-T型インタークーラーターボを積んだエランを開発したのだった。

 ジェミニには搭載されることは無かったDOHCターボ版の最高出&トルクは、165ps/20.4kg.mだった。エランは1992年までに3,855台つくられたロータス・スポーツである。

 FFジェミニと云えば、2台のジェミニが寄り添うように綺麗にドリフトしながらヨーロッパの街を走るテレビCM映像が印象に残る。1990年3月、2世代ジェミニの国内販売を終える。2代目ジェミニの総生産台数は74万8,216台、ヒット作だった。