2016年にデビューし、Aセグで前輪駆動コンパクトSUVの先駆けとなったスズキのイグニス。SUVよりも一回り小さく、ハッチバックよりも一回り大きい絶妙なサイズで、ニッチな市場を開拓して見せた。今回は、そんなイグニスの実力と魅力に迫る。
10年ぶりに復活したイグニス
2020年となった今でこそ、5ナンバーの小型SUVを名乗るモデルは珍しくなくなった。ダイハツにはロッキーがあり、トヨタには売れに売れているライズがある。2019年までは、スズキの独り舞台だったこのカテゴリは、群雄割拠の戦国時代となってしまった。
さて、イグニスというネーミングの話を少しすると、2016年に初めて採用された名前というワケではない。
なぜなら、2000年より販売を開始したスイフトの初代モデルが、海を渡った諸外国ではイグニスを名乗っていたからだ。このモデルを用いて、ラリー選手権への参加経験もある。熱心なモータースポーツファンは、その雄姿を覚えている人もいるのではないだろうか。
初代スイフト(つまり初代イグニス)は、その後6年間に渡って販売され、2006年にカタログから姿を消すことになった。もちろん、日本国内ではスイフトの販売は続けられたことを付け加えておく。
そして、迎えた2016年。初代スイフトは車名をイグニスに変えて2代目へとフルモデルチェンジ。ハイトワゴンにも近いコンパクトなクロスオーバーSUVとして甦ったのである。
一部改良にてグレードを追加
そんなイグニスだが、2020年2月に一部仕様の変更と改良を受けている。販売を開始して4年。初の改良となったわけだが、そこまで大掛かりなものではなかった。
一目見て変更前/変更後が分かる部分は、フロントフェイスの変化だ。改良前は、バーを備えたメッシュタイプのフロントグリルを装着していたイグニスだが、改良後はスズキのラインナップでSUVを名乗るモデルに採用されている縦型スリット入りのフロントグリルが採用された。
SUVの縦型スリットといえば、ジープの専売特許であるかのように思えるが、これがなかなかスズキの車にも似合う。タフさや無骨さが段違いにアップした。
さらに、リアバンパーを同色化し塊感も向上。元々フロント/リアのフェンダーが張り出し、特徴的なルーフラインの絞り込み持つ立体的なイグニス。ボディカラーによっては、巨大なリクガメに見えないこともない。
インテリアの機能面では、全車にフロントシートのシートヒーターが搭載された。快適性もまた向上している。
また、この改良にて新しく、グレード ハイブリッドMFが仲間入りを果たした。この新グレードは、2代目がデビューすると同時に発表されていた特別仕様車を新仕様にアップグレードし、独自のグレードとして位置付けたものである。
とはいえ、元々特別仕様車であったのだから、ベースモデルにはない装備を数多く装備した。SUVテイストを加速させるルーフレールやフェンダーのモール。バンパーデザインもハイブリッドMFならではのもの。
ホイールにも、専用のガンメタリック塗装が施される。
Aセグならではの乗り味を愉しむ
イグニスは、全車でISGと呼ばれるモーター機能付き発電機を搭載した、マイルドハイブリッドとなる。搭載されるK12型のエンジンはデュアルジェットエンジンと呼ばれており、高効率・高燃費を発揮するダウンサイジングエンジンだ。
最高出力91PS/最大トルク12.0kgmを発生させる直列4気筒エンジンに、副変速機構が付いたCVTを組み合わせ、2WDモデルではWLTCモード19.8km/L、4WDモデルでは同モード19.0km/Lの燃費を実現した。
SUVを名乗るモデルでは、日本車で2番目に小さなボディを持つイグニスは、180mmの最低地上高もあいまって街中での取り回しに優れる。
パワートレーンの優秀さもさることながら、このコンパクトなボディを積むプラットフォームのクオリティが良好な乗り心地を生み出している。
イグニスに採用されているハーテクトAプラットフォームは、クロスビーにも採用されているプラットフォームだ。
軽自動車に用いられるハーテクトKに比べ、カバーする範囲が広く、静粛性やハンドリングにも優れている。低・中・高。速度域を問わない乗り心地の良さはここに秘密があるのだ。
880kgという軽い車重で、動きたい方向にすんなり動くレスポンスの良さこそイグニスの真骨頂だろう。
※ ※ ※
ハッチバック、コンパクトSUV、ハイトワゴンと多くの要素を備えるイグニスは欲張りなモデルだ。トヨタのライズは多すぎてちょっと……と、他と被りたくないオーナーにもおすすめな1台といえる。