伊勢自動車道伊勢西ICを降りてすぐ。『麻吉旅館』は、京都の清水寺と同じく懸崖造りの宿。建物自体が登録有形文化財に指定されている。その創業は、すでに200年を越えるとも言われている老舗だ。
遡ること江戸時代。伊勢神宮の内宮と外宮の中間に位置する古市は、参拝客の精進落としをする歓楽街として栄えた場所だ。最盛期を迎えた江戸時代中期になると、妓楼や置屋が70軒以上も軒を連ね、1000人を越える数の遊女を抱えていたという。
そんな古市も戦火によって被災。当時を忍ばせる街並みはほとんど失われてしまったが、麻吉旅館は当時と変わらぬ姿を残し続ける歴史的な遺産だ。多くの芸姑がいた「花月楼 麻吉」を前身とし、伊勢神宮に麻を収める商いが始まりだという。
客室は、わずか6室。外観はもとより、建物に一歩足を踏み入れると別世界だ。江戸時代にタイムスリップしたといわれても疑いようのない、レトロな雰囲気漂う中での滞在となる。当時の部屋をそのまま残すシンプルな和室への宿泊は、それ自体がすでに麻吉旅館でしか味わえない体験だ。
また、館内の2階にある蔵は、現在資料館として使われている。当時の古市の様子が分かる資料や貴重な調度品の数々は、一度は触れてみたい伊勢の歴史を物語っている。