2020年夏頃、シビックタイプRがマイナーチェンジを受ける。と同時に限定モデルであるリミテッドエディションもリリースされるとアナウンスされた。リミテッドエディションは、ただでさえ高性能なタイプRをより研ぎ澄ましたハイパフォーマンスモデルだ。かつての初代シビックタイプRに採用されていたサンライトイエローを思わせる新たな専用色・サンライトイエローに身を包み、ファンサービスにも抜かりがない。
5代目シビックタイプRがマイナーチェンジ!! 更にスパルタンな仕様に
2017年4月、業界を驚かせる出来事が起こった。かつてはモータースポーツの最高峰・F1も開催されたこともある世界でも指折りの難コース、ニュルブルリンクでFK8型シビックタイプRが市販FF車最速のラップタイムを叩き出したのだ。
遡ること2014年、ルノー 目ガーンR.S.275 トロフィーRが7分54秒36の記録を打ち立てたことから始まった市販FF車ニュル最速称号争奪戦は、フォルクスワーゲンのGTI クラブスポーツなども巻き込んで世間の注目を浴びた。そして2017年、シビックタイプRがGTI クラブスポーツの7分47秒19を上回る7分43秒80をマークする。
一旦はここで収束したかに思われたが、2019年にルノーがフルモデルチェンジしたメガーヌを更にスパルタンな仕様してニュルに帰ってきたのである。ルノーお抱えのテストドライバーの中でも神様と崇められている名ドライバー、ロラン・ウルゴン氏がステアリングを握ったメガーヌR.S.トロフィーRが出したタイムは7分40秒10。シビックタイプRの市販FF車最速伝説が破られた瞬間だった。
前置きが長くなってしまったが、現状市販FF車2位に甘んじているシビックタイプRは、5代目にあたる。セダンとハッチバックが同じシビックとして展開している中で、ハイパフォーマンスなスポーツカーに位置づけられるグレードだ。
既に、マイナーチェンジは夏頃行われるとアナウンスされている。詳細を見ると、ホンダの本気がありありと見て取れるアップデートばかりだ。フロントグリルおよびバンパーのデザイン変更、ブレーキの強化と足回りのチューニング、ステアリングとシフト周りの改良、そして多くの安全装備の採用。
多岐に渡るアップデート項目は、シビックタイプRの工業製品としての価値を単純に高めただけにとどまらない。タイプRという特別な称号、シビックというモデルをより鍛え上げるというホンダのアツいパッションが伝わってくる。
しかし、そうした走行性能の向上は熱心なファン以外には注目すべきポイントではないことも確かである。特に、サーキット走行には縁のないユーザーからすればどこ吹く風だ。
では何故、ホンダはシビックタイプRの性能強化に切り込んだのか。その答えは、冒頭に述べた、市販FF車最速の称号奪還にあるのではないだろうか。ホンダが公式に「ニュル最速を目指します!」と言っているワケではないが、やはりナンバーワンは特別だ。ホンダは虎視眈々と、新しいシビックタイプRで再び王座への返り咲きを狙っているに違いない。何しろ、”最速”の響きにはロマンがあり、夢が詰まっている。
ニュル市販FF車最速を狙う、ホンダの隠し玉
2020年8月の発売が待たれる新型シビックタイプRだが、同時に車両重量を削減したハイパフォーマンスモデル・シビックタイプR リミテッドエディションを同年の秋ごろ発売すると発表されている。
このリミテッドエディションは、国内200台の限定リリースとなる特別なモデルで、より早く走ることを目的とした歴代のシビックシリーズで最もスパルタンな仕様だ。
早く走るためには、まずもって軽くなければならない。そのために、リミテッドエディションでは通常モデルに搭載されるエアコンやインフォテインメントは装備されない。
これだけでも過剰なほどのストイックさが窺えるが、静粛性を向上させるために用いられる遮音材もボディ各部から省かれている。さらにはNSX R以来だというBBSとの共同開発により生まれた専用の鍛造ホイールを装備。タイヤには、ミシュランのパイロットスポーツカップ2をおごる。これにより、通常モデル比で合計23kgの軽量化に成功。呆れるほどのダイエットだ。
トピックスはボディカラー。古き良き”あの色”が帰ってきた
エクステリア面での変更点といえば、まずフロントグリルが拡大している。13%広くなったグリルは、冷却性能の向上に大きく貢献。サーキット走行時などでエンジンに高い負荷が掛かる場面でも、冷却水温度を約10℃低くできるという。
しかし、フロントグリルが大きくなっただけではエンジン内部に流れ込む空気量が増えるだけで、車を地面に押さえつける力、つまりダウンフォースが低下することになる。それを改善するための策がアンダースポイラーの装着だ。サスチューンにより向上した追従性と共に、地面を這うような接地感を実現している。
ボディカラーには初代シビックタイプRに採用されていたサンライトイエローを現代に蘇らせた、サンライトイエローⅡを専用色として設定。胸を熱くさせる小憎い演出だ。
また、インテリアは黄色い外装に対して、ホンダのレーシングスピリッツを象徴する赤基調の内装となる。バケットシートおよびステアリングには真っ赤なアルカンターラが用いられ、シフトレバーもボディカラーと同様初代タイプRを連想させるティアドロップ型だ。同時に、リミテッドエディションであることを示す製造番号入りナンバープレートも添えられる。
パワートレーンに変更はナシ。熟成度の高さを物語る
さまざまな改良が施された一方、エンジンスペックについては通常モデルと同様だ。搭載されるのは2.0L 直列4気筒ターボエンジンで、最高出力320PS、最大トルク40.8kgmを発生させる。0~100km/h加速は、なんと5.7秒というパフォーマンスだ。
お伝えした通り、シビックタイプR リミテッドエディションは国内限定200台。世界でも1000台の販売となる特別なモデルだ。日本には未導入となったが、9代目シビックハッチバックをベースとしたタイプRは、生産数に対して実に10倍もの応募があったという。今回のリミテッドエディションも、200台という少ない台数しかデリバリーされないことを考慮すれば、実際にステアリングを握って運転できる人はとてつもない幸運の持ち主といえる。
現在、ホンダのホームページにて特設サイトは公開されているものの、予約方法や価格は順次公開するとされている。ホンダのレーシングスピリッツを感じるためには、もう少し時間がかかりそうだ。
そんなシビックタイプRの2021年モデルが、ホンダのホームグラウンドである鈴鹿サーキットで、市販車FFモデル史上最速ラップを記録した際の映像が届いたので紹介したい。息をのむその走りをとくとご覧あれ。